日記,  認知症

認知症日記-252/287[2019/2/28-4] 明日は、施設に入居-4


★事実を正確に伝える為には本来ならば総てあからさまに書きたいところであるが、お世話になった介護関係者の方々や近隣の方々の個人情報の問題もあるので固有名詞は架空のものにせざるを得ない箇所があることを最初にお断りしておきます。


2019/2/28 義母も参加し全員集合。


2019/3/1からショートステイに「とりあえず」入居させる為、
本人に説明出来ないまま、家族間では入居の準備に大忙しだった。

施設から迎えの車を出してもらうことも可能だったけれど、
直近のヘルパーさんへの介護拒否を知っているだけに、
簡単に入居してくれる筈もない。

なんとか送迎の車に乗せられたとしても、
到着した場所が見慣れぬところであれば、
素直に従うとは到底思えなかった。

そもそも他人任せにできる心境じゃなかった。

母の性格は誰よりも家族が知っている。
最低、家族の言うことならば何とかなっても、
他人の前では「いい格好」をしたがる。
昭和初期生まれのプライドと、「認知症あるある」がタッグを組めば頑固極まりない「社会性」が創造されてしまう。

3/1は施設側と相談して、昼食時間に間に合う様に到着を予定していた。

ショートステイの施設は埼玉県。
隣県とはいえ、10分や20分で着く距離じゃない。
初めての場所だから、早めに出なくてはならない。

ケアマネージャーさんも到着予定時間には現地に入っていてくれる、とのことだった。

我々はとにかく、朝、母を車に乗せ、出かけること。

この第一関門が突破出来れば、半分終わったと思っていた。

第二関門は「施設に大人しく入ってくれるかどうか」だった。

兎にも角にも、朝、車に乗せて一緒にいれば、
施設までの道のりは母の機嫌も保てるだろう。

準備のこともあり、前日から泊まり込んだ。

前日は、「万が一、入居が長引いたり、この後、実家に戻れない」場合を考え、
母の誕生日に連れて行った、一番好きだった少々値が貼る寿司屋を予約した
その食事会には義母も参加した。
さらに、長いこと亡くしたままに放置していた補聴器を三度購入することにした。

義母は母よりも10歳若い70代後半。
しかもかつて介護資格を取得し、長いこと介護業界で働いていた。

隣県の千葉県に居るが、電車でも車でも1時間以上はかかる距離だった。
いくら東京に来てくれると言っても、夜遅く一人で帰すわけにもいかない。

母の一番のお気に入りの寿司屋での「当面、最後の食事」は晩餐ではなく、
ランチにした。

母も義母も、我々家族も寿司は大好物だったから、何かで集まる時は、
「回らない」寿司屋を予約して一緒に食べることが恒例のご馳走になっていた。

しかし、母が醤油皿一杯に醤油を出し、醤油の海の中に寿司一個一個をじゃぶじゃぶと泳がせ、
誰よりも醤油の消費が多く、早いのが悩みの種だった。

我々が醤油皿に母の分の醤油を軽めに用意したとしても、
寿司ダネと米にたっぷりと吸わせた醤油はあっという間になくなってしまい、
「お代わり」とばかりに醤油皿を差し出す。

行くたびに、
「醤油をつけ過ぎだよ」
「身体に悪いから」
「ほんの少しつければいいんだよ」

と周囲の人に好奇の眼で見られても母と言い合いするのがルーティンになっていた。

これは、珈琲、紅茶に砂糖を入れすぎることへの注意と全く同じ、
母の健康維持阻害要因として、必死に注意をしてきたのだけれども、
結局毎回、
「どうせなら美味しく食べたい。飲みたい」
「もう何年も生きるわけじゃないんだから」
「いまさら気をつけても」
「あたしの身体なんだから」

と反発して聞かない。

「そんなに砂糖、醤油をじゃぶじゃぶ使うから9種類も薬を飲まなきゃならなくなっているんでしょ」
と言っても
「あたしはどこも悪くない」
と、医師の診断すら否定してみせる。

血液検査の結果の数値表を見せても、
他人事なのだ。

ある時、このやり取りを義母に愚痴ったところ、
「醤油を水で薄めてみなさい」と言う。

いやいや、色が薄まってしまうし、一発で味が違うってわかるでしょうが・・・

「騙されたと思って、やってごらんなさい」
そう言われた後、寿司を食べに連れて行った際にやってみた。

私と弟が母に話しかけ、気を逸らしている間、妻が全員の醤油皿に醤油を注ぐ。
そして、母の分だけ水で薄めた。
いやいや、薄過ぎるだろ。
一見して、私、弟、妻の醤油皿の他の色と母へ渡す醤油の色が違い過ぎる!
色も違えば、当然味が違うだろう。

食べ始めたとしても、母が
「何、これ」
「薄いからもっと、醤油差して」と言ってくるに決まっている。

ハラハラしながら母の前に醤油皿を置き、
われわれの分をなるべく母の視線から湯飲み茶碗、寿司桶、吸い物、茶碗蒸しなどで死角になる様にした。

「戴きまぁす」
母に考える余地を与えないように、いつもより大きな声で号令をかける。
母もお箸を胸の前で合わせ、元気よく、機嫌よく「戴きまぁす」と言う。

母は寿司を目の前にすると一心不乱に食べ始める。

われわれも食べ始めながら、母の様子を盗み見る。

水で薄めた醤油にいつもの様に、寿司を一貫一貫落とし、泳がせるもんだから、
ほとんど水に近い液体は鮨酢で握られた米がバラバラと形を崩してしまう。
魚に少しだけ醤油をつければこんなことにはならないが、
母の食べ方は魚にも米にもたっぷりと上下左右、醤油に浸す。
だから、余計にバラバラになってしまう。

やば!

幾つもに解体された米を箸で必死にかき集め、
寿司と格闘する母。

なんとか、かき集め口に入れる。
・・・・・

特に不満を言葉にせず、次の寿司を箸で取る。

あれ?
いいの?
それで・・・

安心する気持ちと可哀想に思う気持ちが混じり合う。

ここまですることもないじゃないか
そういう気持ちが自分の胸に迫り上がってくる。

しかし、これは母の健康のためにやっていることなんだ。

結局、母の口から不満は出ず、淡々と食べ続ける。
「美味しい?」
途中で、堪らず聞いた。

「うん、美味しい」
いつも寿司を食べる時に見せる満面の笑顔だ。

どう考えても、色が薄く、味も醤油の味がしないはずだった。
これも認知症による味覚障害なんだろう、と後で家族間で話した。

しかし衝撃的だった。
認知症はここまで健常な感覚を奪ってしまうものなのか。

それ以来、母を寿司に連れて行くときには醤油を薄める作戦が恒常化した。
「もっと早くこの方法を知っていたら・・・」
最初の場面では苦しかった心が現金なものでそう思った。

この方法を伝授してくれた義母が参加してのランチ。
そして、母の外出テリトリーだった街へ車を飛ばした。
有料駐車場から歩道を歩かせる際にも歩行が頼りない。
喫茶店に入った。

母一人が明日からこの風景から遠ざけられることを知らない。
醤油は避けられたが、砂糖大好きの母に珈琲、紅茶は禁物だ。
われわれがメニューを見て、勝手に糖分が少なそうなハーブティを選んでオーダーする。

小一時間、とにかく世間話だけをする。
2階の喫茶店の窓から通りを見ている母。

母がこの光景を次に見るのはいつのことだろう。
ついつい、私の気持ちがセンチメンタルに傾く。

喫茶店から駐車場への歩道で、段差に躓き、母がまた転んだ。

本当にちょっと目を離しても危険だ。
やはり待った無しだ。
とにかく、施設のお世話になろう。

一度お世話になって、その様子で今後をまた考えるしかない。
母を抱き起こしながら、施設にお世話になる理由がまた私の気持ちを占めた。

ランチが終わって、義母が千葉に帰りやすい駅まで送る。

そしてこれからまだイベントが残っていた。

夕方に新たに注文した補聴器の販売担当者が自宅に来てくれる。
そこで母におニューを装着させなくてはならないのだ。

続きます                         (手尾広遠)


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