認知症日記-6/41[2018/7/12] 初めて認知症を疑う
★事実を正確に伝える為には本来ならば総てあからさまに書きたいところであるが、お世話になった介護関係者の方々や近隣の方々の個人情報の問題もあるので固有名詞は架空のものにせざるを得ない箇所があることを最初にお断りしておきます。
1. 見慣れない車が
スペアキーを作りに母を連れて鍵屋へ行き、その後ゆっくりと夕食でも食べてこようと、妻もバイトを休んで参加した。
実家へは同じ都内ながら電車でも車でも45分前後はかかる。
母が普段行きつけない場所に行こうと思うと必然的に車で行くことが多い。
実家には車2台がギリギリ停められるスペースがあったが私と弟が実家を独立してからは、ふだん駐車場は空だった。
母は免許を持っていないので。
約束の時間に実家に着くと、見たことがない車が駐車場にいた。
近づけば社用車のバンだった。
ボディに〇〇鍵店と書いてある。
一瞬、頭の中の回線がショートした。
なんなんだ、これは?
悪い冗談か?
スペアキーを作るだけなら、鍵屋さんを呼ぶ必要はない。
車の中に人はいなかった。
2. 鍵屋さんを呼んでいる
車の横をすり抜け玄関に着くと、玄関の鍵を鍵屋さん(に決まっている)が取り替えている。
横には母が作業をニコニコして見ている。
「あらぁ、あんた達、どうしたの」
・・・・・・・・
どういうこと?
どうしたのはこっちの台詞だ。
3. え、約束したこと覚えていないの?
家の中に母を引っ張っていく。
来てしまっている鍵屋さんに聞かせられない。
「あのさ、今日一緒にスペアキーを作りに行こうって、約束したよね」
母の顔は、絵に描いた「キョトンとした顔」だった。
「覚えてないの?」
母は無言だ。
思い出そうとしているのか?
妻が一昨日のメール画面を出す。
「ほら」
家族でC.C.メールにしているから全員が共通のメールを画面に呼び出せる。
母は画面を見ても何にも言わない。
私が7/8に渡した鍵を手に言った。
「この鍵があるんだから、玄関の鍵穴を交換する必要ないでしょ」
「この鍵からスペアキーを作ればいいだけでしょ」
「だから、今日行こうって約束したでしょ」
「SECOMの鍵も一緒に失くしたんだよね」
またキョトン顔だ。
「だからSECOM呼んだんでしょ」
首を傾げる母。
「呼んでないわよ」
SECOM呼んだ事も覚えていない。
SECOMの鍵もないから、出かけるときに防犯モードに出来ない。
妻にSECOMの合鍵を依頼する電話を掛けさせている間に、
作業中の鍵屋さんと話す。
鍵屋さんは最寄りの駅前にあるお店だった。
鍵屋さん曰く、一昨日母親が店先に来て、鍵の交換を依頼したという。
それで今日の訪問になったということだった。
わたしの手元にあるスペアキーはもう無駄になった。
しかし、もう来てくれて新しい鍵穴を作っている鍵屋さんに作業を止めろという訳にもいかない。
新しい鍵穴に錠前を取り付けてくれて新たに鍵を5個受け取った。
4. 初めて認知症を疑う
問題は錠前、鍵を付け替えることじゃなくて、今日の約束、それを確認した昨日の電話をすっかり母が忘れてしまっていること。
京都の喫茶店で高瀬川を見ながら母が自分で「認知症」と口走ったことを、
ふざけるなよ、と叱るようにして遮った。
それは、この家にはない病名をわざわざ口にすることで、
本当に認知症に罹っている人の苦しみ、家族の苦しみを知らずに軽々しく言及することが失礼だと思ったからだったような気がする。
それが食べたことがない料理名ならば叱る理由がない。
しかし病名を料理名と同じような気楽さで口にしたような感じに聞こえたのだ。
母が自分で認知症かしらね、と口にした真意はいまだにわからない。
しかし、
鍵を失くした時からの様子、
今日スペアキーを作りに行こうと約束したのに鍵屋さんを呼んでいる、
今日の約束自体を覚えていなかった、
これは本当に認知症なのではないか?
妻と顔を見合わせ、
「とにかく一度病院に連れて行くべきだろう」ということで一致した。
検査して貰って、認知症じゃないならば一安心だ。
この時、今までと明らかに違っておかしい、と感じてそう決めたものの、
心の中では「加齢の延長」だろう、と推測していた。
認知症ならば、
数日前に品川駅まで一人で来られるはずがないだろう、
先月には一緒に携帯電話を交換しに待合わせた、
先々月にはシルク・ド・ソレイユを見に行くのに新橋で待合わせた。
来られるはずがないだろう。
だから、病院へ連れて行き安心したかった。
これ以上母を責めても仕方がない。
気持ちを切り替えて、
「食事行こうか」
「いいわね」
母は叱られたこともすっかり忘れたように上機嫌だ。
今、変えたばかりの鍵穴のある錠前は前よりも少し上に取り付けられた。
たった今受け取ったばかりの新しい鍵を母に渡した。
母は、今朝までの前の鍵穴に新しい鍵を何度も挿し込もうとして、首をひねっている。
私はじっと母の後ろで待った。
そこじゃない。さっき変えたばかりだろ。
心の中で呟きながら母が自分で気づくのをさらに待った。
鍵穴に鍵が入らないから、母は鍵をじっと見る。
もう一度、挿す。
同じ場所に。
7回くらいやり直しても、同じく今までの鍵穴に挿し込んでいる。
「さっき変えたでしょ」
もう待っていられない。
声をかけてしまった。
「あら、そうだった」
母はやっと新しい鍵穴に新しい鍵を挿した。
無邪気に「美味しいわね」と連発する母を目の前に、自分も食事をしながらも私の気持ちは晴れなかった。
(続きます)
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