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    認知症-33 改めて迷う、認知症患者の「病識」

     先週、施設の母を見舞った。
    血液検査の結果は独居時よりも安定している。これは規則正しい食生活、薬の服用、適度な運動のお陰だと感謝。
     症状は一進一退。同じ話を何回もする、スタッフさんから聞いた「先週は○○のイベントに参加されました」「近くのスーパーへの買い物ツァーに参加されました」を楽しかった?と聞けば、「そんなの行ってない、参加してない」と記憶が抜けている。一年前と違ってこういう発言にはすっかり家族は慣れた。
    「お風呂は週に何回入っているの?」「ここに来てから一回も入ってないのよ」うう・・
    「洗濯はやって貰ってるの?自分でやってるの?」「やらなきゃと思うんだけど、ついつい溜まっちゃてねぇ」イヤイヤ綺麗に洗われ畳まれているじゃない
    そもそも施設に入居させる時、強い拒否があるだろうと家族間で構えていた。車から降りなかったらどうする?弟と妻がどういう位置どりをして母親を何とか施設の建物内に連れて入るまでが勝負だと、フォーメーションまで相談していた。それなのに建物の中にあっさり入って行った時には心配が杞憂に終わったことにホッとしつつも場所の認識すら出来なくなっているのかと別の憂鬱が心に宿った。
    「二日に一度は『家に帰りたいから息子に電話して』と仰います」と家に戻りたいという気持ちは強いようだ。そのくせ「あ、あの人友達」と施設内で仲良くなった方を紹介してくれる。
    「お母様はこの辺をよくご存知だと仰います」そんな筈はない。隣の県小高い施設、我々もお世話になることで初めて訪れた地区で、近くにこれといった観光名所があるわけでもない。母がこの地区に行った話なんか聞いたことはない。だいだい「ここ」がどこだか認識していない。
     「ここがどこだか分かる?」意地悪のようだが聞いてみる。
    母はうっと詰まりながら懸命に返事を探している。「えっとね、●●駅の近くだと思うのよね」それが実家の最寄駅から隣の駅名だった。実家から車で高速を使っても一時間以上かかる隣の県だということは認識していない。それなのに施設の方やスタッフさんに「ここの場所」について「昔はね」と説明を始めるらしい。
    当初、ケアマネージャーさんから「認知症は病識がありませんから」と説明された。他の病気はたいていの場合、罹患、発症してしまったことを患者本人が認識出来る。糖尿、痛風、骨折・・・だから通院して、食生活や生活改善、運動療法、薬などで「治そう、治りたい」という姿勢で本人が立ち向かえる。
    しかし「病識がない」「自分が認知症だと分かっていない」からこそ、自分がやってしまったことと現実の差に家族や周囲が慌てて修復、陳謝している最中にも本人はニコニコして「どうしたの?なんかあった?」と言わんばかりの顔をされると頭に来たり、泣きたくなったり、ぐったり疲れることになる。介護鬱への道のりだ。
    母親の場合、このパターンに典型的に当てはまっているから「病識がないんだから」「認知症は脳の病気なんだから」と一年かかって、ようやく家族が慣れて接することが出来るようにはなってきた。
    「病識がない」とされ、その通りのエピソードが多いから「認知症を発症している」ことを「無いこと」として本人と接することが暗黙のルールとなっている。その代わり、してあげられることはほとんど無くなった。「あれが欲しい」と言われてもリスクを考え、「今度買ってくるね」と誤魔化すことが決まりになった。

    それでも、ふとした拍子に「どうも自分が以前と違うみたいだ」と判っているんじゃないか、気づいているんじゃないか、と思わされる表情を見せる瞬間がある。その様にこちらが見ているだけなのかどうか、確かめようもないが。
    「自分はどこも悪くない」それが口癖だが、それなのに毎月大人しく通院への車に乗り、お医者さんと話し、薬を飲む。
    ・どこも悪くないなら、何故こんなにたくさんの薬を毎食時に飲むのだろう
    ・朝目覚めた時の景色が実家の庭と違った場所に、何故ずっといるんだろう
    ・実家に暮らしていた筈なのに、何故集団生活をしているんだろう
    ・そもそも、いったいここはどこ?
    健常者なら当然の疑問を口にすることがない。いつ口にされるのか、面会のたびに構えているけれど、そうした質問が飛んでくることはない。
    自分の異変に気付いているからこそ、「家に帰りたい」気持ちを持ちながらも毎日、納得して施設での生活を受け入れているんじゃないのか?
    もし「認知症」と自覚出来ているのなら、随分と家族の対応も変えられる。
    買ってあげられるものも増える。大人しく帰りに施設に戻ってくれるのなら、一緒にどこかに連れ出すことも出来る。
    個人差、症状差があるから一般論では結論が出ないのだろうけれど、施設に入居したからといっても母親はまだ生きている。何かしてあげたい、一緒にどこかに行きたい。それでも何かしてしまった時のリスクを想像すると新たなトライを逡巡してしまうのだ。何が出来て、何をしてはいけないのだろうか?肉親としてはそのことが頭から離れない。

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