日記,  認知症

認知症日記-4/39 [2018/7/7-2] 鍵を紛失しても・・その2


★事実を正確に伝える為には本来ならば総てあからさまに書きたいところであるが、お世話になった介護関係者の方々や近隣の方々の個人情報の問題もあるので固有名詞は架空のものにせざるを得ない箇所があることを最初にお断りしておきます。


1. 同じ話を2時間で何十回も

 お寺さんを出て、小腹も減ったし帰りの新幹線の時間は夕方だ。
もうアクティブにお寺さん巡りも土産物屋周りにも強い関心を示さない母になってしまっていたので、早めに切り上げ新幹線までの時間をゆっくりと喫茶店でお茶と軽食を摂ることにした。
向かったのは木屋町通り沿いの喫茶店だった。
毎年、新しい喫茶店や食事処を探すのも楽しみだ。
母が何年前のことまで記憶しているのか定かではなかったが、、、

 母にはもはや買い物の興味がない
「もうどんどん捨てていかなきゃいけない歳なんだから欲しいものなんかない」が口癖だ。
 会社の同僚に土産を買う為に弟や妻が交代で河原町通近辺の店に行くことにして私と母はずっと喫茶店に陣取った。

 耳が遠くなってからだろうか、普通のある程度の長さの会話が成立しなくなっていた
 こちらが一定の長さの言葉を話しかけても最初か最後くらいしか届いていないみたいに、文章全体じゃなくて、一つの単語だけに反応してくる。
 難聴は聴覚の衰えだけじゃなくて、理解力も奪うみたいだ。
家族でそう言い合ってから、母との会話はブツ切れだ。
「雨上がったね」
「そうね」
「紅茶、お代わりは」
「いらない」
「鍵、どこで無くしたんだろうね」
「わからない」
「家に入れるの」
「わからない」
わからない、って・・・
自分がこの後家に入れるかどうか、どうして焦らないのか?
どうして困った様子が伝わってこないのか?


 心配してるこっちの方が真剣にどうしたらいいのか考えてて、亡くした本人はニコニコしてるってどういうことですか?
もうこれ以上、鍵のことを問い詰めてもラチがあかない。
新幹線が東京に着くのは夜になる。
今晩は私たちのマンションに泊めてなんなら明朝、実家に行って家の周りを一緒に探して鍵屋さんを呼ぶしかないか。そう切り替えることにした。

 高瀬川を眺めながらやっと小雨になったなぁなおも時間を潰す。
疎遠になった親戚や昔母が仲良かった人の話を聞く。
 ゆっくりとお茶を頂きながら、だんだん減っていく親戚の系図でも一回ちゃんと整理して理解しておかなきゃといつも思いながら、また今度また今度でいつも親戚の名前と関係がごちゃごちゃになる。
 時間があるからいい機会と、ナプキンに親戚の複雑な系図を書こうとしても無駄だった。
「名前、なんだったかしら」
「今度ね」
せっかく時間があるのに。
まぁ京都まで来てやらなくてもいいか。
また母との会話の話題が途切れた。
あぁ、高瀬川の流れも昨日の豪雨の影響でいつもよりも早く感じる。
京都いいなぁ、もっと居たいよなぁ。

「傘返してこようかね」
えっ?あぁ、ホテルから貰ったビニ傘のことか。
「大丈夫、ちゃんと好意でくれたものだから」
「そうなの」
久々に口を開けば、杖にならなかった傘が気になってたの?
「Sさんはどこに行ったの」
「だから、買い物に行ったの。すぐ戻るよ」
「あらそう」
この「傘を返そう」、「Sさんはどこに行ったの」と同じことを2時間くらいの喫茶店滞在中に10回以上は聞いてきた
 もう、「さっきも言ったよね」レベルを超えていた。

 弟が戻ってきてからもずっとそうだった。
二人で、無視したり、返事してみたり。
店は空いていたので店員さんにこの観光客は変な会話をする親子だと思っただろうなぁ。


「その傘、返さなくていいの」
 弟が痺れを切らして、「もう何回も言ったでしょ。いいの」
すると、母の口から
認知症かしらねぇ
という言葉が出た。
はぁ?けっこうドキッとした。
しかしテレビや映画で知る認知症は、
家族の顔がわからなくなったり、
徘徊したり、
汚いものをいじったり

凄まじいものだった。
ふざけんな
認知症を舐めんな
そんなに簡単に認知症とか言うな
他に客がいない店内だったから店員に聞かれてももうどうでもよくて、少し強めに返した。
 今、当時のメモを見ながらこうして書いていれば、症状がもう出まくりだとわかる。
 それでも、なぜだか、我が家に認知症はやって来ない。勝手にそう信じきっていた。
難聴、加齢、そんな誰でもの身に起こることのせいだと絶対的に決めてかかっていた。

2. 新幹線の中で思い出した

 新幹線の中でハッと思い出した。
私のマンションに実家の合鍵を一つ置いてあったはずだ。
実家に行く時には母がいる時と決まっていたから何年も使ったことがなくて、今の今まで思い出さなかった。
 なんだ!解決じゃん。
 いつもなら、品川駅で解散してそれぞれ自分の今住む場所へ向かう。
 今回は急遽、母と一緒に私と妻が住むマンションへ連れて行った。
合鍵を探さなきゃ。
 普段ほとんど持ち歩かないから探すのに苦労した。
もっぱら探すのを妻に任せ、私はついつい母を責める口調になった。
「合鍵がなかったから、どうするつもりだったのさ。本当に」
「そんなこと聞かれても、何も考えられなかったよ」
まただ、同じ返事の繰り返しだ。
 無事、合鍵が見つかった。

3. 帰京、なんとか無事に

 合鍵でちゃんと実家の玄関が開いた。
しかしもう暗くて周辺を探せない。
「明日朝、できたらこの辺探してみな」
「はいはい」
気楽な返事だ。
誰かに拾われたらどうするんだ。
「この合鍵一個しかないんだから、来週2、3個スペアキーを作りに行こうね
 今後こんなことが頻発するかもしれないから、多めに作っておかなきゃ。
そう思いながら、来週実家に行けそうな日程を確認した。
「いいね、来週の水曜日12日に一緒に合鍵を作りに行くからね」
「ありがとう」
「また一緒にご飯食べましょう」
ハラハラどきどきの京都行きは、なんとか無事に母を家に入れて大ごとにならずに済んだ。
「なんかあったら電話してよ」
「おやすみぃ」
「疲れださないでくださいね、おやすみなさい」


私たちが自分のマンションに帰っても留守番電話は点滅していなかった。
 母には携帯電話らくらくフォンを使わせていたけれど、なぜだか必ず家の電話に電話をしてくるのだった
 寝るまでも電話が鳴ることは無かった。
まぁ無事家に入れたんだから何もないだろう。
一安心、一安心・・・だと思っていた。この時はまだ
 しかし・・・


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