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認知症日記-253/288[2019/2/28-5] 明日は、施設に入居-5
前回の更新から随分と間が空いてしまった。
この間も、母の体調が悪くなったり、補聴器、入れ歯に問題が起こったり、2年目にして4回目の要介護認定調査に立ち合ったり、親戚に連絡せざるを得なかったり、色々と対応しなくてはならない事態が頻発した。
これらのことについても改めて別稿で書くことになる。施設から電話がある度に、どきっとする。
今度は何があったのか。
単なる事務連絡の時は本当にほっとする。とにもかくにも89歳にして母は認知症のまま、身体は元気だ。
それだけでも有難い
2019/2/28 夕方に3つ目の補聴器を購入。
2019/3/1からショートステイに「とりあえず」入居させる為、
本人に説明出来ないまま、家族間では入居の準備に大忙しだった。もう1年近く経とうとしているのに、この日のことは鮮明に覚えている。
当時書いていたメモを見なくてもまざまざと蘇ってくる。ショートステイとはいえ、初めて介護施設に入居させる。
これまでは、ディ・スポーツという介護サービスに通っていても、
本人は「高齢者向けスポーツ・ジム」と認識しているみたいだった。
(認知症患者である母の「認識」とは矛盾した言い方かもしれないが)本人が「今日も運動してきたよぉ」と嬉しそうに報告をしてくれるのは、それで良かったけれども、「介護サービスのお世話になっている」という意識はなかった。
普通のスポーツ・ジムなら送迎サービスなんかある筈もない、スーパースターじゃないんだから・・・そんなことも疑いもせず。
それからいよいよ薬が順序立てて飲めなくなり、食事の調理も滅茶苦茶になってきたことが分かり、朝夕と訪問ヘルパーさんに来てもらう様に依頼したのが2018年晩秋。
医師にアルツハイマーと診断されてから、僅か4ヶ月後だった。
最初の数週間は大人しく、ヘルパーさんから手渡される薬を飲み、我々が事前に用意していた食事を口にしていた。
しかし、1ヶ月もしないうちに介護拒否が始まった。
転倒も多くなった。
毎朝の庭の水遣りをしている時に転んだ。
居間の上にあるものを取ろうとして、乗っていた椅子から落ちた。
デイサービスから送ってもらった車から降りて家の門の前までの間の平坦な道で転んだ。補聴器も失くした。
両耳を別々の日に。
左右の耳の補聴器をネックレス状に繋いだチェーンからわざわざ外してしまって。最近の補聴器は以前見かけた
こういうタイプじゃなくて、
個々人の「聴こえ方」をコンピュータ管理して、低音から高音までを調整してくれる。
高度な製品なのだった。その代わり、非常に高価だ。私はもう10年以上前に、明らかな難聴を起こしている母を無理矢理ビックカメラに連れて行った。
事前に「補聴器を作ろう」と言っても聞くような母じゃない。「大丈夫」
「要らない」
何度もそう言い返してきた。しかし、会話していて
「えっ?」
「よく聴こえない」
と明らかに難聴になっていた。我々も話す時には、けっこう周囲が気になるくらい大声を出さないといけなくなっていた。
家族だけならまだいい。
テレビの音量がバカでかい。
一人で道を歩いてる時、危険だ。
家にいても、誰かが訪ねてきても気付かない。想像するだけで、日常生活に支障をきたすだろう。
それなのに、
「あたしは大丈夫」
そういう性格なのだ。初めてビックカメラの補聴器売り場に行った時、
ちゃんと検査をしてもらった。
メガネ売り場と一緒になっているが、補聴器の専門資格を持っている担当者がいた。
「老人性難聴ですね」
やっぱり!しかし、その後吃驚した。
数千円からせいぜい1、2万円くらいで購入できるかと思っていたのに、
片耳が10〜25万円くらいするという。「こっちは安いじゃないですか」
横に一緒に陳列されている、1万円前後の商品を指差す。「そちらの方は、いわゆる拡声器のようなもので、全部の音を一度に上げてしまうので、それぞれの方の耳の状態にフィットするものではないのですよ」
商売優先で高いものを売りつけようとするわけではないようだった。
その後の説明で、
片耳それぞれの状態が違うし、
低音から高音までの聴こえの波形を細かく調整していく、
1、2ヶ月に一度、再調整をしてくれる。
その再調整作業は無料だという。片耳15〜25万円の本体と、消耗品の電池。
1、2ヶ月に一度、再調整に連れて来て、その後一緒に食事をするというパターンにすれば、金額はともかく、
金額に悩んだが、話を聞いているうちにこういったタイプじゃないといけないと納得した。
思わぬ高額な出費だったが、身体に関わるもので、放っておけば日常生活の支障が生ずるわけだったから、迷っている場合じゃなかった。その後、補聴器の再調整の為、1、2ヶ月に一度、ビックカメラに連れて行き、電池を買い足し、食事をすることが恒例になった。
補聴器の調整日の合間にも当然、顔は合わせる。
とは言え会話をしている時に、聴こえ方が著しく改善されているようには感じられなかった。
話している我々側には。
「こんなに高額な商品を買ってつけさせているのに」
「つい先週、調整してもらったばかりなのに」
正直、そんな感想を持った。それでも、テレビの音量は少し下がったし、
本人は「よく聴こえる」と、補聴器を装着することを拒否していた癖に、
毎日、ちゃんと装着し、以来、手放せなくなった。ところが、この間、2回補聴器を左右それぞれどこかで落として紛失した。
最初は、左を失くし、
片耳の状態で装着していて、
片耳だけでは良くないから新たに買いに行こうと言っている間に右も失くした。「庭で水やりをして、柿をもいでいる時に落とした」と言う。
広大な庭じゃない。
母が「落とした」と言う場所を何回も探した。
本人は当然、何度も探したと言う。
我々、家族も何度も探した。
母が落としたと言う場所以外も、隈なく、探した。そんなに小さなものじゃない。
本体とコード部分がある。
何かに紛れる大きさじゃない。見つからなかった。
もう、最初に紛失したのが何年前のことだったか、覚えてもいない。
見つからなければ、再度購入するしかない。
しかし、紛失するなんて想定外だった。失くしちゃうんだ・・・
2度目の購入時には、補聴器の左右をチェーンで繋いだ。
いわばネックレスの様にした。
これなら、亡くすことがないはずだ。
落としたって、チェーンごとだから拾えばいい。
家族で話して、安心していた。ところが昨年末、本人から電話があった。
「右の補聴器が見つからないから、お店に連れて行って」と。
はぁ?
どうして右だけなんだ?
チェーンに左右とも繋がっているでしょ?
しかし、物事の因果関係を会話して解決できる状態じゃない。それが認知症の一番困るところだ。
何かが起きても、原因がわからない。
母親本人に尋ねても見当違いの回答しか返ってこない。
だから、再発防止策が取れない。
ヘルパーさんに連絡し、明朝訪問の時に確認をしてもらうことに。ヘルパーさんから連絡あり、確かに右の補聴器がない、と。
チェーンにしっかりつけていたはずなのに・・・
誰かがチェーンから外さないと取れないはずなのに・・・そして、なんと数日後、左耳の補聴器も失くした!
認知症の母に因果関係を問うても無駄なのだが、
一点はっきりしているのは、(多分)母自身がチェーンから補聴器本体を外してしまったのだろう、ということ。
理由はわからない。そう言えば、自分のバッグに赤くて太い紐で財布を結んでいたのに、何度も紐から外してしまって、財布、財布の中のSuica、キャッシュカードを連続して紛失してきた。
以前から、紛失防止で繋いでいる紐やチェーンから外してしまうことが何度もあるのだった。
それが母の癖なのか、認知症ゆえの症状なのか、私にはわからない。外して単独になった補聴器の右を失くし。
続けて、左を失くした。失くした、といっても母の行動範囲は限られる。
改めて書くことが、この年の前年末に長年通った趣味の手芸の会からも脱会させた。
認知症のまま、通っていたが、明確な支障、迷惑をかけたことが生じてしまったから。そして、金銭管理も私の方で行って、買い物そのほかもすべて本人がやらなくていい様にしていた。
基本的には家の中と庭、近所の友人との接点くらいしかないはずだった。
だから、失くした=どこに置いたかわからなくなった。ということだろうと受け取っていた。
左右の補聴器専用のケースに入れて寝る。起きたら、装着。
この繰り返しだから、紛失のしようもないはずだったが、
チェーンから勝手に外してしまった様に、ケースに仕舞わずにどこかにポンと置いて、その場所を思い出せない。そういうことだろう、と。
十中八九、家の中か庭だろう。家族はそう思っていた。
だからビックカメラに連れて行くことはしなかった。
「もう少し、探してみなよ」
一回50万円の買い物をそうそう亡くされ、繰り返し買うなんて堪ったもんじゃない。紛失防止につけたチェーンを外し、どこかに置き忘れて、「失くした」から買いに行ってくれ。
おいおい。その後、家へ行くたびに家族が家の中、庭の隅々まで探した。
何度も。
何十回も。
見つからなかった。
ゴミ箱まで探した。
無かった。
そんなに小さなものじゃないのに・・・難聴のまま生活させるのは危険。
ましてや本人の自覚なく、認知症なのだ。
テレビの大音量も近所迷惑。イヤフォンを繋いでも取ってしまう。
しかし買っても失くしてしまう。
2回購入した補聴器を亡くしたということは、左右それぞれなので、4回失くした、ということだ。
ペアで50万円・・・
無限ループに陥った気がした。2018年年末近くに紛失し、2019年2月いっぱい、再購入せずにいた。
買った方がいいとは思うのだ。
しかし、買っても買っても亡くす。
それから、補聴器を装着していてもいなくても、面前の相手との会話に劇的な変化は感じられないのが実情だった。
「よく聞こえる!」
最初は嫌がっていたのに一度装着させたら、
「これがないと聞こえにくくて」と律儀に毎日つけていた。
しかし、会話する我々からすると「よく聞こえている」とはとても思えなかった。
装着前と変わらず、大声で、ゆっくりと、短い単語で会話しないと伝わらなかった。してもしなくても一緒じゃん。
何度も家族間で、そう言い合った。
定期的に調整に行った直後でも全然、会話が遠かった。補聴器の効果ってなんなんだ?
店員、資格を持ったスタッフさんからは色々と説明は受けた。
何度も。
また、難聴は認知症を加速させる、ということも知った。それでも、この何ヶ月かは3度目の購入に迷っていた。
放っておいていいことはないんだろう。
でも、買ってもまた亡くすんだろう・・・
その迷いのまま日が過ぎていた。そして、この2月28日に購入したのは、施設入居をさせるタイミングだったからだ。
初めての、慣れない集団生活。
介護施設での生活。
誰かに何かを言われても、聞き取れず、それが元に事故ったり、他の人に迷惑をかけるんじゃないか。
そう思って決心した。
入居中ならば、スタッフさんが居てくれるから、勝手に外したり、紛失のリスクも減るだろう。
事前の入所打合せでも、夜就寝時は施設側で預かってくれるという確約も得た。退所したら、またどうするのか考えなくてはならないが・・・
そんなことで購入を決めた。
2月に一度、自宅に来てもらって検査は済ませた。
2度の購入実績があろうとも、身体の状態は日々変化、衰える。
購入に際して最新のデータが必要だ。
以前ならビックカメラで待合せたり、途中の駅で待合せ、店に行ったがもはやそれは望めない。
自宅へ行き母を連れて有楽町に連れて行き自宅に送り届ける。
半日たっぷり掛かってしまうし、何より転倒癖がついていた母を少しでも人混みに連れ出せない。相談すると、ビックカメラでは高齢者向けサービスとして店舗に行かずとも販売資格者が指定の場所に赴いて検査をしたり、購入した補聴器を届けてくれることを知った。
支払いは店舗へ行き、済ませなければならないが。検査が済めば、何十種類もある補聴器の選択となる。
これまでは電池を入れていたものが、本体そのまま充電出来るタイプがあるという。
電池の寿命もあって、ランニングコストが結構かかっていたし、ひょっとしたら電池交換の際にいろいろと余計なことをしてしまう可能性もあったので、充電式は有難い。
しかし従来のものより若干高額になる、と・・・ビックカメラが悪いんじゃない。
メーカーの足元見る作戦が腹立たしい。
しかし背に腹は変えられない。
充電式を注文し、店に行き支払いも済ませた。入居の準備、仕事等こちらの希望と納品の都合を合わせると、ギリギリこの2/28の夕方に受け取るしかなかった。
本当なら、義母との会食のあともゆっくりさせて、我々もしみじみとした時間を過ごしたかったものの、何とも慌ただしい前日となった。
それにしてもなんとか、新しい補聴器が届き、前日のスケジュールはこなした。
明朝、持参させるものは準備OK
あとは、母がすんなり入居してくれるはずもない、という大きな壁を前に正月以来、家族全員が自宅で寝た。
★事実を正確に伝える為には本来ならば総てあからさまに書きたいところであるが、お世話になった介護関係者の方々や近隣の方々の個人情報の問題もあるので固有名詞は架空のものにせざるを得ない箇所があることをお断りしておきます。
(手尾広遠)
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